今日は、今年度最後の「朝会」でした。
朝の冷え込みの厳しさもあり、今回は教室でのリモート朝会となりました。
会の前に、吹奏楽部と女子ソフトテニス部への表彰を行った後、朝会スタートです
ここからは、校長先生のお話を紹介します
先月、明るい話題として日本やアメリカで大きく取り上げられたのは、元プロ野球選手のイチローさん。野球に興味がない人でも、顔と名前は知っているでしょう。 ニュースや新聞で見たイチロー選手の活躍を少し紹介します。
イチロー選手は1992年日本のプロ野球球団オリックスに入団、1999年には史上最速で1000本安打を達成しました。2000年日本プロ野球記録の7年連続首位打者に輝いた後、アメリカのメジャーリーグ、マリナーズの選手となりました。
翌年には首位打者、MVPリーグ最優秀選手、新人王、2004年には84年ぶりに大リーグの記録を破るシーズン262本安打を達成しています。その後、2006年と2009年にはワールドベースボールクラシックWBCで、日本を金メダルに導き、2010年には10年連続で200本安打を記録。その後も数々の記録を打ち立て2019年に引退をしました。彼のニックネームが「The Wizard魔法使い」というのもうなずけます。
イチローさんの素晴らしさは、記録だけではなく、彼が発する「言葉の力」にあります。そこには、野球選手としてだけではなく、私たちが人間として成長していくために必要なヒントがたくさんあります。
21年前の2004年メジャーリーグで最多安打記録262本を達成した記者会見で彼は、「小さなことを積み重ねることが、とんでもないところに行くただひとつの道」、いきなり「とんでもないところに行く」ことができる人なんていない、だれにも最初の小さな一歩があって、それを積み重ねることで「とんでもないところ」に到達することができる、と語っています。
2019年の引退会見では、こんなことを語っています。
「人よりも頑張るなんてことはとてもできない。あくまでも『秤(はかり)』は自分の中にある。秤を使いながら、自分の限界をちょっと超えていく。そうするといつの日かこんな自分になっているんだ。少しずつの積み重ねでしか、自分を超えていけないと思っているんですよね。一気に高みにいるとすると、今の自分とギャップがありすぎて、それを続けられない。地道に進むしかない。ある時は後退しかしない時もあるので、自分がやると決めたことを信じてやっていく。でも、それは正解とは限らない。間違ったことを続けているかもしれない。遠回りをすることで、本当の自分に出会えると思っている。」
どうですか?2004年も2019年も同じことを言っているのがわかりますか?
そして、それは、特別な偉業を成し遂げたイチロー選手だけに言えることではないのだと思います。
「とんでもないところ」に到達するまで自分がやると決めた小さなことを地道に積み重ねていく。その過程では、時には間違ったり遠回りしたりしながら、それでも自分の限界をちょっとずつ超えていく。
そして、1月、イチローさんは日米両方で、野球殿堂入りを果たしました。特にアメリカの野球殿堂入りは、日本人としてはもちろんのこと、アジア人初のことだそうです。
そのインタビューの中でも、大リーガーを目指す子供たちに向けて「一歩ずつ進んでほしい。そこにいくためには、こつこつ進んでいかなくてはいけないということを知っておいてほしい」と言っています。
このアメリカの野球殿堂入りは394人中393人の記者の投票によって選ばれたそうです。たった1人だけ、イチローさんに投票しない人がいました。そのことも大きな話題となり、それについて訊かれたイチローさんは「すごく良かったと思う、生きていく上で不完全だから進もうとできる」と答えました。この答えに彼の生き方そのものが表れています。
私はこのイチローさんの言葉を聞いて、野球とは全く関係のない世界遺産である日光東照宮の陽明門の柱のことを思い出しました。陽明門は12本の柱で支えられています。その柱には渦巻の文様が彫られていますが、実は1本だけ文様が逆さになっています。これは「完璧なものはその瞬間から崩壊が始まる」という考え方のもと、敢えて1本だけ逆さにして、不完全な状態にしているのだそうです。
これを人間に置き換えてみると「人は自分が完璧だと思ってしまうとその瞬間から努力しなくなり成長が止まる。そしていつしか後退していく」ということでしょうか。
これってイチローさんの考え方と同じだと思いませんか?イチローさんが言っていることは、何百年も前の日本人が考えたことと同じ、人が成長するために大切にしたい普遍的な考えだと思いました。
本校の先輩、サッカーの鈴木海音選手は、目標を達成するために「自分との約束を守る」ことを大切にしていると昨年度話してくれました。目標を達成しようとするときには、当然努力が必要。努力の仕方を自分自身で決める。それが、自分との約束。
自分との約束ですから、守らなくてもだれにも迷惑をかけないし、怒られないかもしれない。でも自分だけは知っている。私はこのことがとても重要だと思っています。目標達成のために誰からも、何も言われなくても守り続けている「自分との約束」がある人は、外からは見えない自分の心の中に強い決意があるのだと思います。そういう人の目標は、必ず達成できます。
海音選手はジュビロ磐田から東京ヴェルディに移籍した時の会見で「もっともっと成長する、海外で活躍することやA代表を目指す」と覚悟を語っていました。新しい場所で「自分との約束」を守って、努力を続けているはずです。
あと2か月すると皆さんもそれぞれの次の新しいステージに立ちます。そこで輝くために、「不完全だからこそ成長できる」と考え、目標を持って小さなことをこつこつと積み重ねていく、その小さなことを「自分との約束」として守ってきましょう。